EditorsJuniorの日記

編集・ライター兼オンライン型寺子屋の講師が書籍を紹介したり、日常を綴ったりします。

背伸びしても読むべき中高生~すべての大人向け『日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で』水村美苗/ちくま文庫 <1>

教育関連の取材も多い雑食ライターとして、また子育て中の親として、読んで衝撃を受けた著作のひとつが、『日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で』です。

2008年に刊行された同書は翌年小林秀雄賞を受賞。2015年、英語翻訳が出版されたのを機に文庫化され、わたくし講師Bの手元にあるのはこちらです(4月10日第一刷)。

f:id:EditorsJunior:20220223124923j:plain

著者の水村美苗さんは、12歳で親の仕事の都合により渡米。望郷の念と孤独を埋めるため、家にあった日本近代文学を読みふけり、英語を避けるかのようにフランス語専攻でイェール大学・同大学院を卒業した人。

帰国後、1990年に『續明暗』で芸術選奨新人賞を受賞しました。夏目漱石の絶筆で未完の『明暗』を「文体完コピ」で書き継ぎ、完結させたことは(しかも「帰国子女」が)大きな話題となったと記憶しています。

わたくし講師Bは、近代文学ファンとくに漱石の強火担であった祖母の影響で本好きとなり、いつの間にかライターになっていただけのものですが。子ども世代を見ていて、「頑張ってすごそうな本を読む」という素朴な背伸び願望も消え、漫画さえ読み通せない子が増え、何かというと「作文書け」の宿題もなく、あれ?と心もとなさを感じるようになっていました。

モヤモヤとした不安の行き着く先はどこなのか。

それを『日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で』は教えてくれます。

小学校での英語教科化など、「英語教育」の改革もまた一歩進んだ今、再読して認識をあらたにすることも多くあります。

とはいえこの本、内容があまりに濃いので、章ごとにご紹介します。

取り急ぎ第一章P77から引用

この本は、この先の日本文学そして日本語の運命を、孤独の中でひっそり憂える人たちに向けて書かれている。そして、究極的には、今、日本語で何が書かれているかなどはどうでもよい、少なくとも日本文学が「文学」という名に値したころの日本語さえもっと読まれていたらと、絶望と諦念が錯綜するなかで、ため息まじりに思っている人たちに向けて書かれているのである。

 

エディターズジュニア